ベツレヘムの由緒あるお土産屋
「Holy Land Arts Museum」では、
オリーブ細工と並んで、真珠貝の細工が自慢です。
14世紀頃から続く、伝統技術だそうです。繊細なアクセサリーは逸品です。

ぶどうの枝と鳩の模様のブローチ(30年以上前の作品)
細かい模様を描くのに高い技術が必要です。
ベツレヘムでは、長くクリスチャンにとっての貴重な収入源としての工芸でしたが、
最近では、この技術の後継者が減ってしまいました。
「Holy Land Arts Museum」の工房は、聖誕教会前にあるお店の2階です。
「若い技術者を育てる支援はしてもらえないか」と最初に持ちかけられたのが、既に13年前。
残念ながら、実現できずにいます。
「Holy Land Arts Museum」の職人は、最後の一人になってしまったそうです。
彼も年をとり目も悪くなり、昔のような繊細な仕事はできなくなったと言います。

技術の違いは、一目瞭然です。

上のピアスは最近作られたもの、
下のピアスは40年前頃に作られたもの(直径1.5cm)
店の親爺さんは、
「今ではこの(下の)ピアスを作れる職人はベツレヘムにはいないよ」
と、つぶやきます。
若い人が厳しい訓練を積んで、技術を身につけても、
作品が売れなければ、収入にはなりません。
また、ベツレヘム地区のクリスチャン人口の海外流出は深刻な問題です。
特に、2000年の第2次インティファーダ以降、若年層が出て行ってしまいました。
真珠貝は、元々、パレスチナ地方の最南端、紅海からのものを使っていましたが、
今では南米などから太平洋のものを輸入しています。
紅海産の貝そのものがなくなったのか、イスラエルから入らないのかは、聞いてみましたが
そこでは詳細はわかりませんでした。
貝の質が変わり、それに応じて作品も変わってきています。

真珠貝そのものを洞窟(パレスチナ地方の昔の馬小屋)に見立て、
細工と組み合わせたクリスマスの聖家族の置物
(これはプレゼントでもらったので、別の工房のもの)
しかし、真っ白で光沢のある真珠貝を使ってこそ、繊細な高い技術が際立ちます。
パレスチナ地方では、
金細工は、結婚のときに大切ですが、
装飾品として一般的で、高い技術を誇るのは、銀細工です。
真珠貝の細工も銀細工と組み合わせた、ブローチもあります。

周りが銀細工のブローチ(直径3cm)
エルサレム旧市街にある古い付き合いの銀細工の工房に出して作ったものだそうですが、
壁と検問所で、ベツレヘムとエルサレム間の自由な移動は厳しく制限される現在、
気軽に「合作」が作れるような状況にはありません。
やはりありました。オリーブ細工との合作。

40年以上前の真珠細工を生かしたオリーブ枠のブローチ(直径2.5cm)

最近の作品でベツレヘムイメージ満載の馬小屋の置物(別の工房のもの)
一説によれば、オリーブ細工は4世紀から続く、伝統工芸とか。
伝統工芸の後継者が育ちにくいのは、ベツレヘムだけの問題だけではないでしょう。
ただ、これも、多大に政治・社会状況に影響されているベツレヘム。
それでも現実を嘆くだけでなく、できることを続けていく強さが人々にはあると信じたいです。
「本当に技術の高い真珠細工は、価値のわからない人には売りたくないから、しまっている。
見たいときには、いつでも声をかけて」
と、店の親爺さん。
この商売あがったりの時期でもこだわっているのか、
それとも、パレスチナ大好き外国人の心を揺さぶる商売方法なのか・・・。